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知っていてよかった鍵。

知っていてよかった鍵。

私がまだ、小学校1年生くらいの頃の話です。
母に怒られ裸足の状態で家を追い出された私は、
そのまま扉の前で泣きつづけるようなことはせずに、
祖父母の家へ行こうと思いました。
同じ市内に住んでいたとはいえ、
小学校1年生の子の足では、
歩いていくと軽く2時間はかかる距離。
普段市バスを使って行くことはあっても、
歩いて行くなどということは初めての体験でした。
それも靴をはかず裸足のまま。
泣きながら祖父母の家まで歩きつづけました。
ようやくたどり着いた祖父母の家は、
いつもと違って明かりがついておらず、
普段は開けっ放しの玄関もその日は鍵がかかっていました。
祖父母は旅行中だったのです。
そんなことは当然知らない私は、
無人の家を目指して2時間以上の距離を歩き続けていました。
かといって戻る元気もなく、
トイレにも行きたくなってしまい、
途方に暮れました。
ふいに思い出して、
裏口の鍵置き場を見に行くと、
置き鍵がありました。
祖母がその鍵を使っているところを見ていたので、
記憶に残っていたようです。
その鍵をつかみ玄関の扉を開け、
なんとかトイレには間に合いました。
母たちが探しに来たときのことを考え、
鍵をもとの場所に戻しておくという周到ぶり。
我ながら可愛くない子どもでした。
旅行中ということを知っていた母たちは、
まさかこんなところに娘がいるはずもないと思いつつ、
見に来たようです。
しかし鍵のかかった玄関と、
いつもの位置にある置き鍵を見て、
私はいないと判断したのでしょう。
郵便受けからのぞきつつも、
「いるはずがないよね」
と去って行きました。
そのまま歩き疲れて泣き疲れた私は眠ってしまい、
夜遅くになってもう一度戻って来た母たちに発見されました。
あの頃の私にしてみれば壮大な家出です。
置き鍵の場所を知っていて本当によかったなと思いました。
今ではそのことは笑い話になっています。

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